えっ?えっえっえっ?

(これは一体…)

───どういう状況ですか?

「契約更新」などと言って突然キスをしてきた悪魔に、司は困惑を隠すことができない。
未だに唇は重なり合ったままだし、悪魔からはやめようとする気配を感じられない。
逃げようとするも、いつの間にか腰をがっちり捕まれ、逃げることができない。
司は「やめろ」という意味を兼ねて、悪魔の頭をバンバンと叩いた。
悪魔は仕方ないといった様な表情をし、口を離した。
悪魔は穢れたことなんて知りませんという様な純粋で眩しい笑顔を浮かべると、司の肩に手をポンと置いた。

「はい!これで契約完りょ」

ドゴッ

司は気付くと悪魔の腹を殴っていた。
部屋に鈍い打撃音が響き渡る。
悪魔は後ろへ吹っ飛び、勢いよく倒れると、ゲホゲホと咳込んだ。

「ゲホゲホッ!オエッ…。何するんだよお前ーッ!!」

悪魔はガバッと起き上がり、腹を擦りながら言った。
司は、ハッと我に返り勢い良くスライディング土下座をかました。

「ごごごごめんなさいいい!!急に接吻されてビックリしちゃったんですうぅぅ!」

司は完全にパニクっていた。
ファーストキスを悪魔に奪われ、つい反射で相手をぶん殴ってしまった。
これ契約どころか気分を害して殺されるのではと内心ヒヤヒヤしていた。
悪魔はその様子を見てヘラりと笑った。

「流石タヨ子さんの孫、つえー。何か習ってたの?」

司は顔を上げると、安心しながらも申し訳なさそうな表情を浮かべながら言った。

「あ、空手を習ってました…」

「そ。これ俺守んなくても平気なんじゃない?…じゃあ男との交際の経験は?」

「ありません。ごめんなさい」

悪魔は「異性との交際経験が無いからビックリしてしまった」という意味を悟ると、ヘラヘラと手を振りながら言った。

「いいよいいよー。俺がデリカシー無く年頃の娘に手ぇ出しちゃったんだし。ごめんね、契約するにはキスしないといけないんだよねー」

「あ、そうなんですね」

「うん。あー、タヨ子さんに殺されるわ。「うちの孫に何してくれてんねん」って。まあ、大丈夫だよ。すぐ慣れるって」

「すぐ慣れる」ってことは、これからもこんなことされるのか…。

「はは…」

これからの悪魔との生活に先が思いやられ、司は乾いた笑いを浮かべるほかなかった。