…というわけである。
確かに独りになりたくないって願ったよ。
願ったけどさぁ…、

───悪魔を寄越せとは言ってない!!

しかし、悪魔は司の心情なんかお構い無しだ。

「フーン、やっぱり楠(くすのき)家の人間は美味しそうなのばっかだねぇ。こりゃタヨ子さんが俺を頼るわけだよなぁ」

などと恐ろしいことを言っている。
司は悪魔をキッと睨みつけながら、質問をぶつける。

「なんでおばあちゃんの名前を知ってるの!?というか契約って何!?楠家はおいしそうって何!?悪魔って何!?」

悪魔は両手で耳を塞ぐ。

「おーおー、流石タヨ子さんの孫。悪魔にも物怖じせず質問責めとは」

「こっちは真剣なんだけど!?」

司がそうイラついたように叫ぶと、悪魔は「困ったなぁ」とヘラヘラ笑いながら言った。

「いや、俺だって別にふざけてるわけじゃないよ?俺が悪魔なのは本当だし、タヨ子さんとの契約だって本当の事だ」

「…どういうこと?」

悪魔はセンター分けされた黒い前髪をクシャッと掻き分けながら、ヘラヘラと説明を始める。

「実はさ、楠家って代々悪魔祓い、悪魔退治、つまり祓魔師(エクソシスト)の家系なんだよね。でも最近はその力が衰えている。悪魔やこの世の魑魅魍魎からするとそういう家系の人間の血肉はご馳走さ。みんな食われちまう」

急なファンタジー展開に狼狽えながらも、なんとか話について行こうと縋り付く。

「でもお前のお祖母さんはめちゃんこ強い人だった。迫り来る魑魅魍魎をちぎっては投げちぎっては投げお前達を守っていたんだ」

悪魔は「ちなみに俺もちぎって投げられた」とヘラヘラ笑っている。

「俺はその後タヨ子さんの使い魔になった。その強さに惚れ込んでな」

司はちぎって投げられて惚れるとかただのドMなのではと新たな疑問を抱きながらも頷いた。

「まあそこまでは良かったんだけど、子供や孫が産まれてタヨ子さんは考えたわけだ。自分が生きている間は良いが、死んだ後お前らをどうやって守ろうかってな。で、使い魔の俺に契約を結ばせた。自分が死んだあとお前らを守るようにってな。どんなに強いやつでも命ある限り寿命ってのはきちゃうからな」

まさかおばあちゃんが、あの穏和で優しいおばあちゃんがそんなことをしているなんて思いもしなかった。
そして死んだ後も私達のことを案じてくれているんだと胸の内から温かくなった。
そんな幸せな気持ちに浸っていると、悪魔はパンと手を叩き、こちらに注目するよう促す。

「というわけで、今日から俺この家住むから~。よろしくねー」

「は?何勝手なこと言っ」

「勝手じゃないよー」

悪魔は司の言葉を遮り言った。

「だってお前の事を守るのことが俺の使命だし、タヨ子さんからのお願いだ。一緒にいるのが一番っしょ!それにぃ?お前独りなの寂しいんでしょ?泣きながら「独りになりたくないー」ってさぁ」

「…悪魔って心の中覗けるんだね。思春期の女の子の心情覗くとか趣味悪い。それに泣いてないし」

どうりである意味タイミング良く出てきたわけだ。司はなんとも言えない悔しさから唇を噛み締める。
悪魔はそれをヘラヘラ笑う。そしてヘラヘラしたまま言った。

「さてと、じゃあ契約更新といくか!!」

「えっ?何、近っ…」

気づいた時には私と悪魔は唇を重ね合っていた。