だけどしっかりと耳に届いた。


わたしと洸ふたりして...その扉に目を向ける。


そこには...一見冷静に見えるけれど、怒りのオーラで満ちたような、部活へ向かったはずの早川くんが立っていた...。


「お前かよ」


洸はフッと笑ってそう言葉をこぼすと、

はじめ早川くんに見られたときと同じようにわたしをうしろから抱き締めてきた。


わたしの体を反対に向けたわけじゃなく、

洸がわたしの後ろに回って...まるで、早川くんに見せつけるように。


わたしはそんなつもりなかったが、ちょうど体に力が入らなくなりそうだったので洸に体を預ける形になってしまった。


だけど早川くんの存在がなんとか足を踏ん張ってもう一度脱出を試みさせた。


言うまでもなく、成功しないわけだけど。


「ーーおい。真瀬が困ってるだろ。離れろ」


それは洸に吐かれたセリフで、しかもわたしのことを助けてくれているのに、わたしはとてもビクッとしてしまった。


だって...いつもの彼からは想像できないくらい、低いドスのきいた声だったから...。


彼の怒りはとっくに沸点を越えてしまっている。


だけどそれは必死に抑えているような...そんなオーラが醸し出されている。


人懐っこい笑顔とは別人で...

彼がそこまで怒りに震えている理由が、わたしには分からなかった。