今の時刻は10時30分で、こんな中途半端な時間に部活はきっと始まらない。


遅刻したのか、傘を持っていないから突然の雨のせいで走っているのかどちらかは分からない。


どちらにせよ彼は急いでいるように見えたのにーー

2階で今ここに立っているわたしを、彼は気づいたのだ。


パチリと目が合った気がしたけど、距離が遠いせいで気のせいだろうなと思った。


だけど、気のせいではないみたい。


だって早川くんは、満面の笑みでわたしに大きく手を振ってきたから。


もう、濡れちゃうよ。

雨はポツポツ程度だから、ジャージ姿の彼はそこまで気にしていないのだろうけど。


わたしもニコッと笑って手を振り返す。


彼が口パクでなにか言ってる。


正しくは言葉を発してくれているのであろうけど、窓を閉めたせいでわたしの耳には届かなかった。


わたしは閉めていた窓を横にスライドさせた。


「真瀬ー!頑張ってなー!」


そんな元気な声が雨の音を飛び越えて聞こえてきた。


ふふっ。

応援してくれるのはすごくうれしいけれど、早川くん、そんなことしてる時間あるのかな?