「抵抗しねえんだ?」


求めていることが分かっているのか、わざとらしく尋ねてくる彼をわたしは精一杯にらんだ。


だけど、きっとこれは照れ隠しにすぎないだろう。


これ以上攻めたらわたしがまた泣いて怒りだすからか、彼自身が我慢できないかは分からないけれど、彼はわたしの唇を少しの間見つめてから...

ゆっくりと自分のソレを近づけた。


わたしはもう、なにがなんだかわからなくなっていた。


だって、学校の王子様とこんなことしてるなんて、だれが思うだろう。


しかも、わたしみたいな平民女と。


ねえ洸。


“思い違い”じゃないって思ってもいいの?


“本気”って言葉、信じてもいいのーー...?


ーーピリリリリッ


唇と唇が触れあうまであと数ミリのところでーーそんな軽快な音がやけに大きく鳴り響いた。


ピリリリリーー


わたしはハッと我に返り、洸がすぐそばのテーブルに置いてある自分のケータイに目をやっている隙に、

その小さな小さな隙間からすり抜けて彼から距離をとった。


「で...電話!はやく出ないと...!」


わたしは取ろうとしない洸のケータイを勝手に手に取り、

彼の前にポイと投げた。


彼はその画面に目線を落とすと、

「親だから、長くなるかもしんねえ」

それだけ言ってケータイを手に持ち通話ボタンを押して、

ベッドから下りながら耳にケータイを当てて部屋をあとにした。