「お願い、忘れて!!」
顔から火が出そうなほど恥ずかしい。
「朝からなにも食べてないの!!」
しゃべって誤魔化すけど、なんの解決にもならない。
「すげえ音。はじめて聞いた」
いまだに笑いながら追い討ちをかけてくる洸に、わたしは思わず泣きそうになる。
鳴り響いたその音は、正真正銘わたしの空腹を示していた。
「ひどいっ」
こういうときこそ、王子のように振る舞ってほしい。
王子モードを発揮させれば、洸ならいくらでもそれができたはずだ。
なんてデリカシーのないやつ!
わたしも女の子なんだし、そんなに笑うなんていくらなんでもひどいよ。
「も、もう帰る!」
居たたまれなくなって立ち上がろうとしたそのとき。
「わるいわるい。ちょっと待っててな?」
洸はそう言って部屋をあとにした。
ああもう、ほんとにさいあくだ。
なにか食べてきたらよかった。
髪の毛とメイクで手一杯で食べる時間がなかったのだ。
って、わたしなにいつもより念入りにメイクして、髪の毛も丁寧にアイロンしちゃったの!?
わたしのばかばか!!
そんなことを頭のなか巡らせていると、「お待たせ」と洸が戻ってきた。
右手にはマグカップ。
左手にはなにかのっているお皿を持って。
どうやらわたしに飲み物と食べ物を持ってきてくれたようだ。
「お、おかまいなく」
さっきの出来事がまだ恥ずかしくて、ツンとしてしまう。
「お腹すいてんだろ?食べな?」
なんて、まるでペットにエサを与えるような言い方に一瞬ムッとしたが、そんな気持ちすぐに消えた。
だって、お皿にのっていたのはわたしの大好きなバームクーヘンだったから。



