「告られたこと何度もあるだろ?」
高嶺の花の紲に告白するやつはきっとそれなりには自分に自信があるやつのはずだ。
「うーん。告白されるけど~、ピンとこないんだよね。
なんとなく付き合うのは相手にわるいし。
てゆか、今はあんまり恋愛とかいいかなあ。
でも、高校に入ったら素敵な恋がしたいな~!
先輩彼氏とか憧れちゃうっ!!」
「そうか」
紲なら大丈夫だろ。
高校に入ったら、今より生徒数が倍になるからきっと紲に見合う男がいるはずだ。
そのとき赤だった歩行者用の信号が青に変わったため、立ち止まっていた俺たちは横断歩道を歩き出した。
横断歩道の真ん中で、ズボンのポケットに入れていたケータイが滑り落ちた。
「洸もさ~、きっと本気になれる相手がいつか見つかるはずだよ!」
俺の先を歩く紲がそんなことを言っている。
紲の言葉よりも、落ちてしまったケータイに神経をやっていた。
「ねえ洸!聞いてるのーー...ッ洸!!」
ケータイを拾い顔を上げると、こちらに振り向いた紲は叫びに近いような声で俺の名前を呼んで、
血相変えて俺に飛びかかってきた。
今思うとそれはスローモーションに見えた気がする。
紲によって横断歩道から歩道へと押し出されたと思ったらーー
目の前でーー紲は大型トラックにひかれ何メートルも先に飛んでいった。
それは一瞬の出来事だった。



