「洸も、あたしと同じ中学校に行くよね!?」
小6に学年が上がって夏休みをもうすぐ控えたある日の休日。
家でテレビを見てダラダラ過ごしていた俺に、塾から帰って来た紲は身を乗り出して尋ねてきた。
「はあ?」
紲は県内で最も偏差値の高い中学校に受験する。
勉強なんてしたことない俺が行けるわけがないし、行きたいとも思わない。
当然家から歩いていける町立の中学校に行く。
親もそんなことを言っていたはずだ。
「あたし洸と一緒がいい!!」
紲はそう言って聞かなかった。
「俺が合格できるわけねえだろ」
「それは勉強してないからでしょ!?
洸だってやればできるはずだよ!!
だってバスケだって一番上手くなったじゃん!!」
勉強じゃなくて運動で勝負したらいいって言ったのはどこのどいつだよ。
「洸が町立中学校行くなら、あたしもそっちに行きたいってお父さんとお母さんに言う!!」
「そんなの許してくれるわけねえだろ」
「それがわかってるなら、洸がこっちの中学校に受験してよ!!」
「...あのなあ。紲みたいに頭よくねえんだから...」
「あたしが教えるから!!」
「は?」
「あたしが洸に勉強教える!!だから一緒に頑張ろう!?」
俺はこのとき紲のことを無視した。
勉強なんかしてやるか。
親が行ってほしい中学校に受験なんかしてやるか。
そんな反抗したい気持ちも心のなかにあった。
でも、紲の気持ちは変わらなかった。
毎日毎日俺を説得してくる。
一週間が過ぎる頃、俺はようやく折れた。
「...分かりやすく教えろよ」
「洸だいすき!!」
紲はどうしてこんな俺を好きと言えるのか。
双子なのにこんなに自分と違う俺をあきれて見下してもおかしくなかったのに。
紲は毎日俺に勉強を教えてくれた。



