ーー洸が好き。


王子様の洸のことは、ほんとうに憧れていた。


だけど今は...


俺様な本性の洸を、好きだと思う。


本性を知る前よりもずっとずっと...洸のことが好きだ。


あんなにわたしに優しくしてくれた洸に、“気をつけていってらっしゃい”も言えていない。


洸はきっと、わたしのことなんて忘れるだろう。


だってそうでしょう?わたしに“忘れてくれ”って言ったんだから。


自分はすぐに忘れられるってことでしょう?


だから洸のいうとおり、精一杯忘れる努力をするよ。


でも、その前にお願い。


“好き”と“いってらっしゃい”だけ、伝えさせて...。


それ以上なにも、望まないからーー


校舎から抜け出したわたしは、正門をくぐり、目の前にある横断歩道に飛び出したーー


「ーー晴香ッ!」


必死なわたしはなにも見えていなかった。


なにも聞こえてこなかった。


目の前にバイクがブン!と通り抜けた。


あと数センチのところで...当たりそうだった。


「あ...ぶね...」


耳元でささやくその声は震えていた。


わたしを後ろから引きずったその手も...あきらかに、震えていた。


「前見ろ、バカ...」


心底安心したように大きく息を吐いた彼。


わたしは都合のよい夢を見ているのかと思った。


わたしが今すぐ会いたかった彼がーー


洸が、わたしを助けてくれたから...。