わたしが彼の隣に座ることができたのは、
彼が下りる駅のひとつ前。
ということは、それはそれは短い時間で。
次の駅なんて、2分も経てば着いてしまうわけで。
プシュー...
電車が止まって...彼の瞳が、開かれた。
隣を見ていないけど、なんとなくわかる。
扉が開くのと同時に、彼は席を立ち上がる。
彼はいつも、藍色のバッグひとつしか持っていない。
だけど毎日必ず、席を立ったあと、
忘れ物がないか、後ろを振りかえるの。
ーーこれだけ、許してください。
わたしはそんな思いで、彼を見た。
だから、後ろを振り返った彼と、
ごくごく自然に、一瞬だけ、目が合った。
たった一瞬なことなのに...わたしの鼓動を加速させるのには、それだけで十分で。



