「頭からぶっかけるなんて、ひどすぎる」
きっとこんなことをするのは君だけだ。
この世に君しかいないだろう。
「なに、お礼も言えねぇの?」
たしかにそうだ。
結果的に助かった。
というか、助けてくれた。
だけど...
ありがとう、なんて絶対言いたくない。
こんな助け方されたって、なんにも嬉しくない...
むすっとしてなにも言わないわたしを、藍川くんは小さなため息をついて。
「じゃあーー」
ぐいっーー
「アイツらにこういうことされても、よかったわけ?」
背中には、ソファ。
目の前には、彼の綺麗な顔。
捕まれた手首。
思考がついていかない。
わたし...
押し倒されてる?
「なあ。聞いてんだけど?」
自分の心臓の音がバクバクうるさすぎて、
彼の声もちゃんと聞き取れない。
今まで彼氏や友達以上の男友達ができたことがないわたしには、
こんなの...頭が真っ白になる。
そんなことを、彼は容易にこなしてくる。
「否定しねぇってことは、襲われてもよかったってことかよ?」
「ちが......っ」
ようやく言葉を発せて否定できたけれど、やっぱり目の前の彼に感謝なんて気持ち見いだせなくて。
「あーあ。それならアンタが連れ込まれるとこ、見過ごせばよかっーー」
パシッーー
自然と右手が出ていた。
その手は震えてしまっていた。
「最...低!
藍川くんなんて...
大嫌い...!」
わたしはその部屋から飛び出して、急いでみんながいる部屋から自分のカバンを取り出してカラオケボックスをあとにした。
みんながいる部屋は暗かったし盛り上がっていたからわたしに注目することはなかった。
「...っ...」
......ほんとは、ありがとうって
素直に言いたかった。



