「…小さい頃、俺は、海で一人で遊んでて溺れそうになってもがいてたら流されたことがあったんです。周りには誰もいないし、もちろん一人で、気にかけてくれるような人もいなかった。そんな矢先、俺に近づいてくる一人の女性サーファーがいたんです。その人は俺を抱き上げ笑顔で『もう大丈夫!』と励まし、サーフボードに乗せてくれました。立てるかと聞かれ、首を横に振ると、『落ちないようにバランスとって座ってて』と言われて座ってるとそのボードはどんどん陸に向かって進んでて、見るとお姉さんがサーフィンをしているボードの上に俺は、座らされてるって気付いて。無事、陸に戻った時、『怖くなかったかな?』って笑ってくれていつか、また会えると良いね!って話したんです。それが俺がサーフィンを始めようとしたきっかけです」と圭斗君は言った。

その話を聞いてとても驚いた。

だって…過去にそんな助け方したの、一人しかいないんだもの。

確かに私は一人だけスゴく思い出に残ってた。

いつか会えたらなと思ってた。

それがまさか、こんな形になるとは夢にも思っていなかった。

「圭斗君それがもし、忘れられない真実の記憶なら、間違いなくそれは私だわ。私も忘れたことないのよ。その子のこと。確かに何人も助けて来たけど、あんなことしたのは一人だけだった。その時使ってたボードが、今も使ってるここで作ってもらったボードよ」と私は言った。

「ほんとに?けど…ボード色違ったような気がしますよ?」と圭斗君。

「ああ、それは多分プライベートで使ってる方だったから色違ったのよ。もしかしてこれじゃない?」と私は言ってスマホに保存してあった写真を見せた。

深緑のボードに喧嘩上等のステッカーが貼られたものだ。

当時はまだ柄は入れていなかったんだけど、カズトの彼女になってから喧嘩上等は入れるようになった。

「確かに…こんな色でしたけど、このステッカーは貼ってませんでしたよ?」と鋭い所をつっこんできた、圭斗君。

「まあ、だいたい入れないよね?喧嘩上等ステッカーなんて」私は言って苦笑い。

「あら?でも飛鳥ちゃんにとっては大切な思い出でしょう?初めて彼氏と海に来たときの…」と奥さんは言う。

「そうですね。でもそれが思い出ってメッチャ複雑じゃないですか。喧嘩上等のステッカー貼るなんてどんな彼氏だったんだって思われそうで」と私が言うと、

「まあまあ。あなたのヤンチャ具合いが伺えて良いわよ?飛鳥ちゃんは娘みたいなものだから」と奥さんは笑ってくれた。

「まあ、姫だったんだし仕方ないんじゃない?彼氏は総長だったでしょ?」とご主人に言われてしまった。

「…暴走族の姫?」と社長が意外なところに反応した。

「ヤンチャしてたって言いましたよね?」と私は言ってみた。

「…マジなやつだったの?」と社長に言われて私は頷いた。

「けっこう暴れてたかんじですか?」と圭斗君。

「まあ、大概ね」と私は笑う。

「大概強かったのよ。姫になる前から、暴走族の彼氏と一緒に暴れまくってたからね。姫になったら皆に守られるけど…私は皆に手を出させないくらい強かった」と私は苦笑いする。

社長と圭斗君も苦笑いだった。

「けっこうな問題児で、よくウチにも逃げ込んできてたものね」と奥さんは懐かしそうに言った。

「そうでしたねぇ」と私は笑った。

社長は言葉を失っていた。