最悪だ。最悪だ。最悪だ、最悪だ!
私は無我夢中で森の中を駆ける。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
何を間違えたのだろう。
助けを叫んでも無意味なことはもう気付いていた。
それでも私は叫び続けた。
ああほら、後ろから追って来てる足音がどんどん近付いて来てる。
手が伸びる。
私の頭を掴む。
私は恐怖で意識を失いかけながらもぼんやりと思い出していた。
いつだったか、私に手を差し伸べてくれた子の言葉。

「本当に辛い時は、私に言って。大丈夫に、してあげるから」

ねえ貴女の名前はなんだったっけ。
いつそんなこと言ってくれたんだっけ。
惨めな私に手を差し伸べるほど馬鹿でお人好しで優しすぎる真っ白な貴女の名前。
名前すら思い出せない私を大丈夫にするとはどういうことなのだろう。
ああでも。
もし本当に大丈夫になるなら。
私はもうほぼ閉じかけた意識の中で呟いた。

「どうかお願い、私を助けて」

それがとても残酷なお願いになるとは知らずに。
この時の私はそう呟いて意識を失った。

これは私の呟きひとつで私の世界が変わってしまった、私の人生最大の間違いの物語だ。
私はずっと、あの呟きを後悔している。