「響希」
…誰?
誰か私を呼んでる。
「おい響希」
…うるさいなあ。
頭痛いんだから静かにしてよ…。
「起きねえの?お前大学は」
大学…ああ大学ね。
ハイハイ…って
…大学!!行かなきゃ!!!
大学の存在をすっかり忘れていた。
急に飛び起きたからなのか
頭がひどく痛い。
「いっ…アタマ痛ぁ~…」
「おはようハニー」
ぱっと顔を上げると
見知らぬ部屋とニヤついた蓮斗の顔が目の前にあった。
あ。
思い出した。
私昨日蓮斗の部屋で飲んで…
そのまま寝ちゃったんだ…。
「れ、れんと…ごめん私…」
「響希チャン。君には危機感ってのがないの?」
「え?」
「え?ってお前…よく知らん男の部屋でぐーすか寝るなよ…どうすんだ犯されたら。俺はそんなことしねえけど」
「だ、だって。蓮斗が子守唄歌ってきたから眠たくなっちゃったんだよ」
ほんと、子守唄みたいだった。
蓮斗にとってはただ何気なく歌っただけかもしれないけど。
さすがバンドマン。
「やべえな俺の声。人眠らせれんの」
蓮斗は笑った。
昨日近くで見てみて思ったけど…
蓮斗ってよく見たら相当イケてない?
いっつも髪の毛ボサボサだからよくわかんなかったけど
眼鏡の奥に見える目はくっきり二重で
睫毛も長くて
横顔の首筋から顎にかけてのラインなんて
すっごいキレイ。
「やっぱバンドやってるだけあるわ…」
「お前なにブツブツ言ってんの。大学は」
「ああ、大学ね、行きます行きます」
大学って気分じゃないなあ…。
頭も痛いし。
重い足取りで蓮斗の部屋から出ようと帰り支度をし始める。
「響希」
「なにー」
「今度来てよ、俺のライブ」
はい、と渡されたチケットは意外にもちゃんとした作りだった。
会場は、この辺りでは1番大きなライブハウスだった。
「ここ、この辺で1番大きいとこじゃん。蓮斗ってそんなすごいの?」
「あったりめーだろ」
「気が向いたら行ってあげる」
「惚れんなよ、俺相当かっこいーよ」
「惚れない惚れない」
「えっへ~?どーだかぁ」
ニヤニヤしながら蓮斗は玄関のドアを開けてくれた。
「じゃーね」
「ばいばい。あっ、昨日はありがとう」
「んー」
短く返事をしてドアから顔だけを出して蓮斗はひらひらと手を振ってくれた。
…まあ家は隣なんだけど。