やってしまった。


完全にやらかした。



一晩寝て起きて冷静になった私は




昨日怪しい男にした自分の行動を思い返して



羞恥に悶えていた。




いくらムカついたとはいえ



あれはないよなあ~…。



まあ、でも。もう会うことはないだろうし!




あの人もそのうち忘れてくれるよね。




そんなことより



大学行きたくないな…。



大学に行けば、


嫌でも隼人と顔を合わせなきゃならない。



なんていったって、同じ学部なのだから。





隼人と会ったらどんな顔をすればいいんだろう。




浮気した方も、浮気された方も、



どちらも気まずいこの状況。




重い足取りで大学へと向かう。




「…おはよ~」




「おはよ~、響希。ってあんたひっどい顔」



朝一番に容赦なく私に毒を吐くのは



高校から一緒で大学の友人でもある由香。



「そりゃひどい顔にもなるよ…。」



力ない私の言葉から何かを察したのか


すぐに心配そうな顔になる由香。




「…なに?隼人となんかあった?」



「なんかどころか大事件だよ。もぉ最悪」



「浮気だ!」



「…正解。なんでわかったの?」



「なんでってあんた…。響希が男運ないのはいつものことでしょ」



ごもっともすぎて何も言い返せない。


何故かいつも私が付き合う人は


変な男ばかり。

まあ主に浮気男なんだけれど。



「なんでいつもこーなんだろ…」



「顔で選ぶからに決まってんでしょ。響希はまず面食い直さないといい彼氏できないよ」




「だって付き合うならやっぱかっこいい人がいいじゃん…」



「…響希はさ。可愛いんだから、向こうから好意持ってくれる人いっぱいいるでしょ?そういう人にもっと目を向けてみなよ。そうすればすぐ良い彼氏出来るって」




「そんなこと言ったってさ…。いいよね、由香は。高校の頃から3年も付き合ってる彼氏がいて」



「響希。あたしは心配してるんだよ。あんたの幸せそうな姿をはやく見たいの」



にこっと笑って由香は言った。


由香はいつも、私が彼氏に振られると

こういって励ましてくれる。


私もはやく由香に良い報告ができるようにしなきゃな…。


「…よし!私、頑張って次こそ良い彼氏つくるよ」



「そうだよ、男なんて星の数ほどいるんだから!」




こうやってどんな話もちゃんと聞いてくれて

励ましてくれる友達がいるのは、それはそれで幸せなことだと思う。



いくら何度も浮気されてるからといって、


慣れるものではなくて


浮気される度にそれなりにダメージは受ける。


由香に話を聞いてもらうと


少しだけ元気が出るのでいつも聞いてもらっている。






午後の講義を終えて、


帰ろうと準備をしていると、



目の前に隼人が姿を見せた。





「隼人…」



「響希…。その…昨日はごめん。あれはちょっと…魔が差したっていうか…だから…」




「…話したくない。私、帰るから」



「響希…。そう、だよな。ごめん…」


隼人は一瞬だけ切なげな表情をした。


「もう連絡もしてこないで」


早歩きで帰路につく。




悔しい。



私、あのまま隼人の話を聞いていたら、


隼人の表情を見ていたら、



隼人を許してたかもしれない。



そう、許してしまう程に



浮気されてもまだ

隼人の事を好きな事に気づいてしまった。



自分がダメな女すぎて嫌になる。





途中、家の近くのコンビニが目に入った。




…今日は飲もう。


そうだ。飲んで飲んで隼人の事を吹っ切って


次の良い人を探そう。


それがいい。




コンビニで何本かの酎ハイとおつまみを買って、


自分のアパートに戻った。




「あれ…鍵どこやったかな~…」



玄関先で鍵を探していると


背中越しに


「あ」


と声が聞こえた。



振り返ると






「えっ…昨日の…」


昨日泣き顔を見られた怪しい男だった。



今日はマスクをしていない。





「な、なんで今日もいるんですか」



「なんでって、君の隣の部屋。俺の家」



こんな人、だったっけ。


同じアパートだなんて全然知らなかった…。



よりによって隣だなんて。




「あっ…あの…昨日はすいません…暴言吐いてしまって…ちょ、ちょっと嫌なことがあって…」



「あー…まあ浮気されるのはキツイよね」




やっぱ覚えてるか…。


最悪だ。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。




「あ、あの…もう昨日の事は忘れてください。ほんとすいません、お見苦しいものを…」




「それ全部1人で飲むの?」



怪しい男の視線の先には


私が手に持っている大量の酎ハイとおつまみ。




「あ…ハイ。なんか…飲みたい気分で…」


男はふーん。とつぶやいた。





「…俺ん家、来る?」