その日の午後
2人で広場にいると

「凪咲!!!」

って怒鳴るような声が聞こえた。
振り返るとそこには顔を紅潮させた男性が立っていた。
「お父さん、、、、」
その男性は凪咲の父親だ。
見た目はモデル並みにカッコイイ若そうな男性。
普通にお兄さんな感じだけど。
お父さんって。
「ちょっとここで何してるん?」
「いや、、、」
「俺が悪いんです」
「君は黙ってて」
凪咲の父親ってめっちゃ怖かった。
なんというか絶対昔ヤクザだったみたいな威圧感があった。
「凪咲、ここで何してるのって聞いてんだけど」
「学校サボりました」

パシッ

父親はその一言で凪咲の頬をひっぱたいた。
しかもとってもいい音だった。

凪咲は自分の頬を抑え、涙を溜めて父親を睨んだ。
「ちょっとこい」
って凪咲の腕を掴んで引っ張っていく。
「やめて!!!!」
凪咲も必死の抵抗するが、父親の力には到底適わない。
「悠助けて」
「やめてあげてください」
「は?君には関係ない」
「関係あります!」
「おい、てめえ殴られたいのか?」
「それが親がすることですか?」
「そうだ」
「とんだクズ野郎だ」
「なんだとてめえ。やんのか?」
「いいよ」
そう言うと父親は凪咲を離して俺に向かってきた。

グハッ
グフッ
バコン
グチャ

俺は無我夢中に父親を殴ってた。
凪咲を見ると泣いていた。
「凪咲、、ごめん、、」
「ううん、、悠は悪くない、逃げよう、、」
「うん。分かった。」
俺達は無心に走って逃げた。

「う、、あ、、凪咲、、」
父親は口が切れて血が滲んでた。
「覚えてろよ」
俺達に向けて言った。

「はー、、」
「どこまで来たんだろね」
「分からない」
「とりあえず疲れた」
「そうだね、少し休もう」
俺達は山の奥まで走ったようだった。
木陰で休むことにした。

「凪咲の父親って、、」
「うん。見ての通り喧嘩弱いの」
「だよね」
「ああやって脅して人を遠ざけてきたの」
俺は別に喧嘩強いわけではない。それでも殴ることが出来た。直感で弱いと思った。

「なのに俺、何回も殴っちゃった」
「ううん、いいの」
恐らく凪咲は怖かったと思う。
でも気丈な様子を見せた。
「いいの?」
「うん。おかげ清々した」
凪咲が言った言葉を噛みしめるように聞いていた。
すると

「私の親はずっと私を縛っているの」

すごく意味深なことを話し始めた。
「どういうこと?」
「えっとね、、、私は一人娘で親に可愛がられてきたの。だから子供への愛情が異常なの。特にお父さんの愛情が異常すぎて怖い」
俺からしてみたら羨ましく思えた。
俺からは愛されたことが1度なかったからだ。
でも凪咲にしてみたら恐怖を感じるくらいの異常な愛情だったのだ。
「私の部屋に勝手に入ってきては何かと話しかけてくるの。最初はまぁいいかって思ってたんだけど、でも最近は体を触ってきたりしてきてとても怖くなって出て行ってって言ってしまったの」
「それ普通に言うよね」
「うん、そこからお父さん変わっちゃった。私が男の子と話してるの見ると今日みたいなことをしちゃうの」
「嫉妬してるんだね」
「うん、家族なのに」
それは一種の愛情表現だと言えよう。限度超えると娘でも手を出してしまう。いわゆる近親相姦。
それが原因で家族崩壊が始まる。
凪咲の家では既に崩壊が始まっていると言う。

「ねえ悠」
「なに?」
「今日は帰りたくない」

そりゃ今日のことがあるから帰りたくないだろうなって思うけど俺はどうしたらいいのか
その時、俺の頭の中に閃きがあった。
「あ、そうだ!」
俺の閃いた顔を見て凪咲は首をかしげる。
「喫茶店のおばさんに相談してみよ」
「そうだね!」
2人は歩いて喫茶店に向かった。

着いた頃にはもう4時だった。

カランカラン
「いらっしゃい、、って凪ちゃんどうしたの?」
喫茶店のおばさんは凪咲の表情が変わったことにいち早く気づいた。
「まぁ座りなさい」
そう言うと俺達はいつものところに座った。
「おばさん」
「なんかあったのかい?」
今日の出来事を全てのことを話した。

「それは辛かったね」
おばさんが凪咲の頭を撫でると安心したのか泣き始めた。
その様子を俺は隣で見守っていた。
するとおばさんが小さい声で
「君は凪ちゃんを守るんだよ」
って凪咲には聞こえないような声で言ってきた。
俺は深く頷いた。
凪咲には内緒でおばさんに話を聞きに行こうと思った。

しばらくすると凪咲は泣き止んだ。
凪咲の目は赤く腫れていた。
ずっと辛かったんだなって思うと心が締め付けられる感じがした。
「落ち着いたかい?」
「うん、ありがとうございます」
凪咲はやつれ気味にお礼を言った。
「今日はどうすんだい?」
「わかりません。どうしたらいいのか」
「なら私んち泊まっていきな」
「いいんですか?」
「もちろん」
凪咲は少し笑顔になった。
「だけど家にはちゃんと言うんだよ」
「はいそうします」
すぐに携帯を取り出し母親にメールを送った。
すると「分かったわ、よろしく伝えおいて、お父さんのことはなんとかするから」とメールが来たとの事だ。
「じゃあ俺は帰ります」と言うと
「悠、帰らないで」
凪咲が甘えるような声で言ってきた。
俺は帰る家がなかった。
「分かった」
「やった、おばさんいいよね?」
「ええもちろんよ」
俺も嫌だったけどメールで泊まって帰ることを送った。
でもその後返信はなかった。
「なんで悠には返ってこないの?」
「まぁ気にしてないから」
「悠話して?」
凪咲には俺の状況を知ってほしかったのはずっと思ってた。でも話すと凪咲が居なくなるような気がしてたからあえて俺から話すことはなかった。
でも聞いて欲しい。
俺が歩んできた人生を、、、