その後の授業はまともに受けず、ずっと頭の中には凪咲のことが巡り回っていた。
「早く終わらないかな?」
物思いにフケてると後ろから巧が「おい、呼ばれてるぞ」と耳元で囁かれる。
「ふぇえ?」って変な声が出てしまう。
それを聞いた先生達は大爆笑。
さらし者の気分ってかその通りになってる。
心底恥ずかしくここから逃げ出したくなる。
それでも幸せな気持ちだったから笑っていられた。
HRが終わり、急いでバックに教科書を詰め込んで校門に向かう。すると、凪咲とばったり会う。
「あれ、今だったの?」
「うん、そうだよ」
「うふふ、奇遇だね」
「なんか嬉しい」
凪咲が笑うと俺まで笑顔になる。
これが恋なんだ。
今までとは違う感覚になっている。

それから俺達はこの町にある唯一の喫茶店に行くことにした。
もちろん俺はここの喫茶店には行ったことないけど、凪咲は何度も来ているようだった。
「いらっしゃい」
「こんにちは、また来ちゃった」
「凪ちゃんにはいつも来てもらっておばさんは嬉しいよ」
「えへへ、だってここのカレーがとっても美味しんだもん」
「俺もカレー好きだよ」
「え、ほんと?なら一緒に食べよう」
「うん、食べたい」
「あらら?凪ちゃん彼氏?」
「え!?違いますよ!」
凪咲から否定されたことに正直ショックだったけど、まぁそうだよなって自己完結した。
でも、凪咲の顔は赤かったような。
マジマジと見ると「何見てるの!?」と恥ずかしそうに顔を逸らす。
それを見て可愛いって素直に思えた。

ここの喫茶店は地元民の憩いの場として長年愛されてる。
俺は山奥に住んでるから町にはほとんど行くことはない、それに彼女とかいないから喫茶店とか絶対行かないと思ってた。
「凪咲ってこの町に住んでるの?」
「そうだよ、ここから歩いて5分くらいのところかな?」
すると、おばさんが
「凪ちゃんの家はね、大豪邸なんだよねー」
え?大豪邸?まじかよ?
俺の頭の中はパニック状態に陥っていた。
「ちょっと!おばさん!」
「ホントのことじゃない」
「そうだけどー」
そんな会話をしている中、俺は頭の中を整理していた。
凪咲はどっかのお金持ちの子なのか?
いろいろと整理したけど、全然追いつかない。
「悠?大丈夫?」
凪咲の顔が俺の顔の近くにあった。
「は!?近い近い」
「だってー何度も呼んだのにぼーっとしてたから」
俺の顔は恐らく真っ赤。
「てか悠顔が赤いよ」
「凪咲のせい」
「なんで?私のせいなの?」
「それは、、、、」
「ん?」
「なんでもない」
えーって言いながら凪咲は分かっているかのように微笑んでいた。
俺と凪咲は話題が尽きることなく気づいたら夕暮れになっていた。
「あ、帰らなきゃ」
「そうだね、送るよ」
「いいよすぐそこだし」
「いや送る」
大豪邸ってどんなんか気になるし、凪咲とちょっとでも話したかった。
てか、帰りたくなかった。
お会計を済ませ、ほんとに5分くらいで凪咲の家に着いた。
凪咲の家を見た俺は開いた口が塞がらないということわざがあるように、見事塞がらなかった。
それを見た凪咲がめっちゃ笑っていた。
「なんで笑うの?」
「悠の横顔がめっちゃ面白かったから」
そう言うと俺も笑う。
「じゃあ送ってくれてありがとう。また学校で話そうね」
「うん。てかアドレス教えてよ」
「あ、そうだったね」
しっかりと凪咲のアドレスゲットした。
「じゃあ帰ったら連絡するね」
「うん。待ってるね」
自転車に乗り帰路にたつ。
俺の姿が見えなくなるまで凪咲は見送ってくれていた。

家に着くと母親が出てきた。
「おかえり。遅かったわね」
別にって言い残して自分の部屋に入る。
俺は家族が嫌いだ。
何かとイチャモンつけてきてはため息をついて「なんで悠は役に立たないの」と吐き捨てるように言ってきたのだ。
俺は産まれたらいけないと思い、家出をしたこともある。
でもその後、父親が警察に捜索願を出したほど大事になったから嫌だったけど帰った。
そうしたら父親と母親が顔を真っ赤になるくらいにして俺の頬をひっぱたいてきた。
そして、俺に向かって
「まったくお前はどこまでくずなんだ」
「ほんとにどうしようもないね」
我が子に向かって言う言葉じゃないのに平然と言ってくる。俺の両親はどっちも公務員で町の中では頼られていると近所の人が言ってた。しかも偉い役職をもらっているらしい。
俺は家族が何をしてるのかまったく興味が無い。一人息子で家に帰るといつも両親はいない。学校でも1人だし家でも1人。そういう生活にうんざりもしていた。
何もかも全部無くなってしまえって毎日思いながら生活してきた。
そんな中に現れたのが凪咲だった。
俺は凪咲をほんとに愛おしく思えた唯一の存在。
だから凪咲と話せた時は頭が真っ白になった。
「やべえ返さないと」
「帰ったよ、今日は楽しかった!」
携帯の返信ボタンを押す。
すると数秒後にチロリンって携帯の音が鳴る。
「おかえり。私も楽しかった!こんなに話したのも久しぶりだった。また話したい。」
俺は部屋で叫びたいくらいの興奮した。
直ぐに返信する。
「俺も凪咲とたくさん話したかった。」
「私もだよ。」
これって脈アリなのかな?
ほんとにおかしくなるくらいずっと足をバタバタしてた。
「また話そうね」
「絶対ね」
明日が楽しみすぎて絶対寝れないと覚悟していた。
けど深い眠りに入った。