そう言って持ち上げたマドレーヌを見てみると、


マドレーヌの特徴である貝殻の形は一切見られず、訳の分からない凹凸まで出来ている。


言わなくてもお分かりだろうが、私の作ったマドレーヌである。


「それは何というか、その…私が」


もう、なんでお母さん私のも入れてるの!?


「ごめなさい。おそらく母が間違えて入れてしまったんだと…」


「じゃあ、これはお前が作ったやつ?」


「はい。あ、あの、味の保証もないですし見た目がこんななので食べなくても…」


いいです。


そう言いかけた時にはあの不格好なマドレーヌは長谷川君の口へと運ばれていた。


私としては、自分の不器用さが抜群に発揮された料理を見られ、挙げ句の果てには食べられてしまい、もはや穴があったら入りたい状態。


「あの、大丈夫ですか?」


心配になっていてもたてってもいられなくなり、そう尋ねる。


「ん。ふつーにうまいけど」


「……それなら、よかったです」


と、そっと胸を撫で下ろしたのも束の間。


「見た目は壊滅的だけどな」


「い、言われなくてもわかってます!百も承知なことを言わないでくださいっ」


「…あ、まだあんのに」


「もう、長谷川君には差し上げません!」


残りの一つに手を伸ばしかけていた長谷川君から、容器を急いで取り上げた。


全部あげると言ったのは前言撤回だ。


「けち」


「なんとでも言ってください」


物言いたげな長谷川君に、私も負けじと反論する。


「お前覚えてろよ。マフィンの恨みはでかいからな」


長谷川君と私が交わしたこの会話。


これがこのあと起こる大波乱の幕開けだなんて知りもしなかった。














HRが終わり、礼をした後一斉にみんなが動き出す。


私はというと、ちょうど掃除当番にあたっていたのである程度の人がいなくなってから掃除を始めた。


掃除といっても、基本的に掃き掃除と黒板を綺麗にするくらいなので、毎回2、3人で行われる。