うやむやな状態のまま私は教室に戻った。









***


翌日。


席に着くと、教室には長谷川君の姿があった。


「はよ」


「おはようございます」


時間が早いということもあり、教室には私たちしかいない。


長谷川君はというと、紙パックのカフェオレを飲んでいる。


「地味子いつもこの時間?」


「はい。大抵は」


この時間に教室にいるってことは朝練はないのかな。


そんなことを思いながら 鞄から教科書などを移していると、向こうにいた長谷川君がこっちへにやってきた。


そして近くの席から椅子を奪い、背もたれを前にして座る。


長谷川君の謎の行動を無言で見ていると、目の前でカフェオレが入っていたパックがズズッと音を立てた。


「お腹すいた」


突然の報告に目をぱちくりさせていると、長谷川君の視線が机の横にかけてある私の弁当袋に向いていることに気付いた。


エサを目の前にお預けを食らっている子犬のような表情を浮かべる長谷川君。


その姿に思わず何か食べるものがないか思考を巡らせる。


そういえば、今朝お母さんがお昼のデザートにと持たせてくれたマドレーヌがあったことを思い出す。


「お弁当はあげられないですけど、これなら…」


そう言って鞄の中からマドレーヌを取り出す。


「食っていい?」


「はい。こんなもので良ければ」


実はこのマドレーヌは昨夜お母さんと一緒に作ったもの。


私の不器用さを熟知しているお母さんが少しでもマシになるようにと、度々こうして一緒に料理をしている。


「うまい。もう一個ちょうだい」


「他のも全部どうぞ。私は昨日も食べたので」


マドレーヌが入っていた容器ごと長谷川君の方へ移動させる。


容器の中のいくつかを食べ、残り2つとなった時だった。


残ったうちのひとつを掴んだ長谷川君が口を開いた。


「なんかこれだけ変じゃね」