叔母さんの家に着いた。

「ただいまー」

叔母さんから、返事はない。

テレビを見ているようだ。

私は自分の部屋に行き、荷物を置いて着替える。

太郎の散歩に行こうと思い、1階に降りると。

「あんたの同級生、テレビ出てるわよ」

叔母さんに教えられた。

「え?」

まさか、誰か犯罪でもしたのだろうか。

いや、未成年だから実名などは出ないはずだ。

テレビに目を向ける。

打球音が聞こえた。

野部君がテニスをしている映像だった。

注目の若手ということで、地元のテレビに出て特集されていたのだ。

犯罪じゃなくてほっとする。

同時に、野部君の輝かしい戦績を知る。

海外での試合の映像も流れた。

「すごい……」

思わず、そう呟いた。

野部君はコートを駆け巡り、鋭い打球を放っていた。

野部君の映像が終わり、ニュースになる。

私は太郎の散歩に向かう。



散歩コースの途中で、野部君に出くわした。

そういえば、いつも野部君に出くわす時間だ。

「こんばんは、野部君」

「お帰り、桑野さん」

会うのがすごく久しぶりな気がする。

そのまま、一緒に歩き出す。

「野部君、さっきテレビ出てたね」

「あ、そうか。今日だっけ放送日」

野部君はまるで他人事のように言う。

「もしかして、見なかったの?」

「多分、両親は見てると思うよ」

「何で見ないの?」

「う~ん、恥ずかしいからかな」

そいうものなのだろうか。

まあ、私も自分がテレビに出たとしても、恥ずかしくて見られないかもしれない。

「それより、修学旅行はどうだった?」

「うん、すごく楽しかったよ。初日はひめゆり資料館に行ってね……」

どんどん口から思い出話が出てくる。

野部君は楽しそうに聞いてくれた。

「で、友里がみんなを注意してね」

「へえ、友里が。珍しいね」

「うん、そうだよね。それで、平和祈念公園に行ってね」

私は時間の許す限り、修学旅行の楽しさを伝えた。

「あ、そうだ。お土産買ってきたんだ」

「僕に?」

「うん、そうだよ」

「ありがとう」

私は野部君にシーサーのお守りをあげた。

「大事にするよ」

「うん」

お菓子はスポーツやってる人は制限しているかと思い、やめた。

いろいろ考えた結果、お守りになった。

ふと、考える。

野部君はずっと、この先も旅行とか行けないのかな。

3日打たないと鈍ると言っていたから、無理かもしれない。

海外を転戦するとはいえ、自由に旅行も行けなくて、辛くないのだろうか。

テニスが好きなことだから本人はいいのかもしれないけど、大変そうだ。

私には無理だろう。

「どうしたの?」

私が急に黙ってしまったので、心配してくれたらしい。

「ううん、何でもない」

「じゃあ、おやすみ。お土産ありがとう」

「うん、おやすみなさい」

野部君は去って行った。