「今日、残業な」


先程の会話から数時間経った後、水沢に再び声を掛けられた。


「え?」


「これ頼まれてさ。すぐ取りかかるから、おまえも手伝え」


分厚い資料の山を軽々と運ぶ水沢の言葉に、溜め息をつく。


新プロジェクトの発足に力を入れていることは良いけれど、雑用をこなす社員の身にもなって欲しい。ーーなんて、管理職には言えない愚痴です。



「1部ずつ束ねるんだよね?2人じゃ無理だよ」


時計を確認して終電を逃すことを心配すると、水沢は聞く耳を持たずに会議室の扉を開けた。


仕方なく私も後を追い、広々と作業できる会議室へと入る。




「助っ人、呼ぼうよ」


「ああ?みんな残業続きで、疲れてるんだよ。俺たちだけでやれないこともないだろうが」



「……私もここ数週間、定時に上がれてないよ?」



疲れているのも、早く帰りたいのも
みんな同じなのに。


「つべこべ言わずに、さっさとやれよ。時間の無駄」



むかつく。

一番むかつくのは、こんな最低男を好きな自分自身。


結局、手を貸してしまう恋に溺れた自分が、

嫌いだ。