部長と夜を共にしてから一週間。

考えろと言われた答えは導き出せず、教えてもらえる気配もないので悶々としたままなのだけど。

肌を重ねた翌朝、出社する彼が突然『忘れ物があるだろ』と言い始め。

最初こそ何のことだと首を傾げたけれど、それが以前一度だけ仕掛けた新婚さんのいってらっしゃいのチューのことだと気付いた私は大いに戸惑った。

それから連日、彼は頬にキスをしないと出社しない。

プラス、私にもキスを返すようになって。

本当の新婚さんのような甘い朝の光景に、私は胸を高鳴らせつつ口元をにやけさせてしまう。

けれど、浮かれて少しすると去来するのは不安。

東雲部長の気持ちが私の中でハッキリとしないからだ。

ただ、最近はプレスリリースの準備に忙しいのもあり、あれこれと深く悩まずに済んでいるのは幸いかもしれない。

入道雲が浮かぶ夏空の下、出社してすぐ仕事に取り掛かれるように仕事の段取りを頭の中にイメージしていると、本社ビルのエントランスでゆずちゃんと会った。


「おっはよ、亜湖」

「おはよう。今日も朝から美女オーラが出てるね」

「でしょ? でもさ、鳳さんには効かないみたいで」

「そ、そうなの?」

「はぁ……あたしの王子様はどこにいるのかしら」


物憂げに長いまつ毛を伏せたゆずちゃん。