谷川さんはまだ東雲部長と立ち話をしていて、私はコーヒーとアイスティーの入った紙コップを小さめのトレーに乗せて運ぶ。


「失礼します。谷川さん、アイスティーいかがですか?」

「あら、ありがとう。私、紅茶好きなのよ」


微笑みと共に谷川さんが紙コップを受け取った。

彼女が紅茶好きなのはリサーチ済みだ。

相手の心を掴むには、まずは相手を知ることが大事。

それは、奥田マネージャーのPRとしての姿勢から日々学んでいることでもあるけれど、広報部への配属初日に東雲部長からアドバイスをもらってからずっと強く意識していること。


「東雲部長はホットコーヒーです」

「ああ、ありがとう」


ちなみに部長の好みは一緒に生活するようになってから覚えたもの。

部長は夏でもホットコーヒー派なのだ。


「そうだわ、向日さん。発表会の”雪の魔女”、あなたのアイデアなのよね」

「は、はい」

「私今から楽しみなの。花嫁を美しくさせるのは素敵だけど、恋する魔女でしょう? ロマンチックでミステリアスで最高よね」


「腕がなるわ~」と笑顔を見せて、谷川さんはアイスティーに口をつける。