部長の微笑みを見てからというもの、私の心の乱れやすさといったらない。

胸の高鳴りを落ち着けようと視線を逸らし、そろそろ会議室に戻ろうと今一度頭を下げようとした時だ。


「鳳には俺から変更の旨を伝えておく」

「え? 大丈夫ですよ。後ほど私が連絡し──」

「ダメだ」

「な、何でですか」


頑なに拒否をされ、半ば体を固くし瞬きを繰り返す私の耳元に東雲部長が唇を寄せる。


「お前は今、俺の妻だろう?」


耳たぶに触れる息はこそばゆく、鼓膜に染みるような甘く低い声に羞恥が湧いて。

思わず肩を縮こまらせた私を、部長は喉の奥で笑った。


「あいつはかなり悪い虫だから、隙を見せて寄せ付けないようにしろよ」


さらなる言葉の追撃に、心臓も頭もパニック寸前。

あの日、私をソファーに押し倒した時のように、冗談なのか本気なのかもわからないまま「りょ、了解です」とだけ返した私は、部長の視線を感じながらも逃げるように会議室の扉を閉めたのだった。