朝から涼しい瞳が私を真っ直ぐに捉える。


「どうした」

「忘れ物、です」


と、口に出してみたものの、部長に対して今からやることが相当勇気のいることに気付いた。

いやしかし、中高生の頃ならいざ知らず、私ももう大人の女だ。

人並みに色々経験してきたわけだし、何より。


「忘れ物?」


やられっぱなしは悔しいから。


「そうです。えっと……少し、かがんでもらえますか?」


頼まれた部長は不思議そうに膝を折ってくれたけれど、それでも私の頭より少し高い。

目的を成し遂げるには届かず、彼の右腕を引いて爪先立つと、予想していなかったのか、部長は僅かにバランスを崩す。

その隙に、暴れる心臓を無視して一気に唇を部長の頬に触れされた。

すぐに離れ、彼の様子を伺うけれど、部長は瞳を丸くはしたものの特に言葉はなく。


「これが、忘れ物か?」

「は、はい……あの、新婚さんのお見送りといえば、これかなと」

「そうか。じゃあ、行ってくる」

「い、いってらっしゃい」


大して動揺もせずに、部長は私に背を向けた。

のだけど。

ガガンッと、何故か開けないまま扉に突っ込んだ東雲部長に私は双眸を見開いた。