コクリと喉仏が動いて、今さっきの東雲部長の行為のせいで、そこに色気を感じてしまった私は慌てて目を逸らした。


「そ、そういうのじゃなくて笑顔の話です!」


そう、そうだ。

笑顔の東雲部長を見たい、知りたいという話だったのに。

これもドS活動の一環なのか。

こんな攻撃にも耐えないと強くなれないとか、半年間も持つのかな私。

変な汗がじわりと噴き出てくる中、東雲部長はリビングの扉に向かって歩き出す。

そして、リビングを出る手前でこちらを振り返って。


「そんなに見たいなら、お前が笑わせてみろ」


むちゃ振りを投げてきた。

ゆずちゃんが成しえなかった部長の笑顔を引き出すミッションを私が成せと?

思わず「えぇ~っ」と声を漏らせば、部長は小さく肩をすくめてから再び足を前に出す。

そのまま廊下に姿を消すのかと思ったのだけれど、彼は背を向けたまま柔らかい声で言葉を紡いだ。


「俺も、本格的にお前を知りたくなった」


そうして、リネンシャツの裾をひらりと靡かせた去り際。

意味深に目元を緩めた彼の唇の端は、確かに、上がっていて。

目を見開いた私と東雲部長の視線が、ほんの一秒絡まったあと。


「おやすみ」


穏やかな声で告げられた挨拶に私は、初めて見ることができた柔らかな微笑みという追撃のせいで、何の反応も返せないまま口をぽかんと開けていた。