『とにかく、最初は各メディアの好みを把握しろ』
シャルマントを担当することになった初日。
そんなアドバイスをくれたのが、明倫堂の執行役員でもあり広報部長である東雲 真斗(まさと)だ。
数々のプロジェクトを任され、その実力を評価されて、最年少で明倫堂の執行役員に上り詰めたと噂に聞いている。
「マスター、ハイネケンを」
「かしこまりました」
ビールをオーダーした東雲さんは、ジャケットを脱ぐと背もたれに掛けた。
端正な顔にかかる長めに残された前髪が揺れて、漂う色気に一瞬鼓動が高鳴る。
三十三才独身。
仕事ができる上にかっこよくてスマートで長身とくれば、当然の如く、女性社員からの評価も高い。
明倫堂の次期社長で、現在は企画部に在籍している東條さんも相当のイケメンだけど、うちの部長も負けていないと思う。
ゆずちゃんから聞いた話では東雲部長の隠れファンクラブもあるのだとか。
先輩に憧れる中高生みたいだなと思いつつも、こうして観察していると納得できてしまう。
ビールグラスを手にする後ろ姿だけでもかっこいいと思えるのだから。
眼福、眼福。
心の中で繰り返して、私は自分のグラスに口をつける。