お腹いっぱい美味しいものを食べたい。

けれど、カロリーを摂取しすぎて丸くなっていくのは遠慮したい。

そんな心の欲望を口にした私を部長は、心配するようでも呆れるようでもなく、いつも通りのクールな表情で口を開く。


「お前は、色気より食い気か」

「ちょっと、失礼ですよ! というか、そんな言い方するなら色気のある女性とお試しすればいいじゃないですか」


東雲部長に誘われたら喜んで首を縦に振る女性はたくさんいるはずだ。

縁側に寝そべるトドな私ではなく、縁側に腰掛けて東雲部長にしな垂れるセクシー美女だってゲットできそうなものなのに。

子供っぽく、ちょっとだけ頬を膨らませて部長を睨むと、彼はゆるゆると頭を振った。


「いや、向日。俺はお前がいいんだ」

「えっ……」


東雲部長の瞳は相変わらず私を真っ直ぐに捉えていて。

ふいにそよぐ湿気を含んだ夜風が、私たちの髪を優しく揺らす。

また、ふっと香った部長のコロンの匂い。