「お、お疲れ様です」

「ああ、お疲れ」

「ちょっと、東雲部長! あたしのことは名前で呼んでくださいって言ったじゃないですか!」


ゆずちゃんが抗議すると、東雲部長は「釜田は釜田だ」とクールに言い残し、スタスタとカウンター席に一人腰掛けた。

ゆずちゃんのフルネームは釜田 弓弦(ゆずる)という。

そして本人曰く、釜田と呼ばれるとどことなくディスられてる気がするから、名前を呼んで欲しいとのことだ。

プラス、彼女はオカマではなくオネエらしい。

違いがよくわからないけれど、本人が名前で呼んでほしいらしいので、大半の同僚は「ゆずちゃん」か「ゆず」と呼んでいる。

しかし、当たり前だけど上層部の人はそう気軽に呼ぶことは少ない。

そして、それは東雲部長も然り。

私は、イケメンが来たからとお化粧を直しにお手洗いに立ったゆずちゃんを見送ると、そのまま視線を部長の背中に移す。


国内シェアナンバーワンと謳われる大手化粧品会社【明倫堂】。

入社して四年目の私は、まだまだ勉強することも多いけれど、今年の四月から広報部に配属となり、人気のコスメシリーズ『シャルマント』のPRを担当させてもらっている。

とはいえ、まだまだ頼りないので今はまだアシスタント業務がメインだ。