『試してみるか、結婚生活ってやつを』

『はい?』

『俺と結婚しろ、向日』


あの電撃求婚のあと、『細かいことはまた明日話す』と告げ、部長は混乱している私を残し、ひとり地下鉄への階段を降りて行ってしまった。

一応、東雲部長が仕事用として持っている携帯の番号もメアドも知っている。

知っているけれど、今のは何ですかとしつこくするのも嫌で。

というか、時間が経つごとに聞き間違いか幻聴ではないかと自分の耳を疑い始めた私は、自宅に着く頃には最早どこまでが現実だったのかすら怪しくなってしまった。

お酒も入っていたし、聞き間違いの可能性は高い。

なので、とりあえず朝一番に確かめようと思っていたのだけど。


「──以上だ。奥田、続きを頼む」

「わかりました。向日さん、操作よろしくね」

「は、はい」


結局、なかなかタイミングが掴めずに会議の時間になってしまった。

早いところ確かめたくて仕方ないけど、これは昼休憩を待つしかなさそうだなと諦め、いい加減仕事に集中する。