毎度毎度「聞いて亜湖。あたし、恋しちゃった」と報告される相手は、全員イケメンで彼女持ち。

けれどゆずちゃんは恐れない。

身に纏う服は女性物で、髪型だってゆるふわロングだけど、自分が男の体であることを隠さず、猛アタックする。

結果……。


「あたし……このまま添い遂げてくれる人がいなかったらどうしよう」


まともに彼氏がいた試しがない。


「独り身もそれなりに楽しいし、いいと思うけど」


絶望し項垂れているゆずちゃんに答えながらキンキンに冷えたペールエールを喉を鳴らして飲む。


「あー、美味しー! 仕事終わりのアルコール最高」


ゆずちゃんの気分も変えられればと、わざと明るい声を出してみた。

けれど、目の前のゆずちゃんがティッシュで鼻をかみながら私をさっきよりもどぎつい視線を送ってくるので、どうやら話題の方向転換は失敗したらしい。


「亜湖。あんた、結婚する気あるの?」

「んー、特にないなぁ」


先月、五月に迎えた誕生日で二十六歳になって。

今年四月に広報部へと移動してきてから少しずつ仕事も楽しくなってきた。

それに、二年前に別れた元カレのおかげで結婚願望は現在皆無と言っても過言ではない。

だから、心のまま正直に答えた時だ。


「向日(むかひ)と釜田(かまた)か」


突如、背後から低く心地のいい声が私たちの名を呼んで。

振り向くと、そこに立っていたのは私とゆずちゃんの上司である東雲(しののめ)部長。

梅雨も終わり、今日は少し気温が高めにも関わらず、東雲部長はパリッとしたオーダーメイドのスーツを着こなし、涼やかな瞳で私を見下ろしている。