「なるほどな。じゃあ問題ない」

「……え?」

「俺は生活でお前を困らせることはしない」


もろちん、それは一緒に生活をして理解しているけれどと、瞬きを繰り返す私に真斗さんが愛しそうに眦を下げる。


「お試しではなく、正式なものにしたい」


突然、しかもこんな場でそんな話をされるとは思ってもみなくて。


「これ、プロポーズですか?」


酔っていないのに幻聴でも聞いているのかと、半年前にお試しで結婚生活をしようと提案された時のことを思い出す。

けれど──。


「それ以外に何がある」


目の前の彼の微笑みはどう見たって本物で。


「お料理苦手だけどいいんですか?」

「かまわない。そのままの亜湖でいいから、俺と結婚してほしい」


優しい眼差しの中に真剣さを宿し、握った手に力を籠める真斗さん。

愛しさと喜びに満ちた心は、私の頬を自然と緩ませて。

その笑みに気付いた真斗さんが「それはイエスととっていいのか?」と尋ねてきた。


「それ以外に何がありますか」


少し涙ぐみながら彼の真似をしてみせれば、会場内には演出用の祝福を告げる鐘の音が鳴り響く。

天井から、色とりどりのアネモネのフラワーシャワーが降りしきる中、真斗さんもまた幸せそうに笑みを零した。






― FIN ―