「今までの女はな。でも、向日は違う。お前が部に配属された日から、ずっと思っていた。裏表のない笑顔と、飾らない人柄が好ましいと」


私を褒める言葉を並べた彼は、そっとグラスをお盆に乗せる。


「向日、俺が何を確信したか知りたいか?」

「それは、」


もちろんです、と。

そう紡がれるはずのそれは、伸びてきた部長の手が私の頬に触れたことで最後まで声にならなかった。

輪郭をなぞる指はひどく優しい。

東雲部長の瞳が、真っ直ぐに私を捉える。

気恥ずかしのに、目が、離せない。

月の光を纏う彼が、そっとこちらへと端正な顔を近づけてきて。

高鳴る鼓動を感じながらゆっくりと瞼を伏せると、柔らかな唇が重なった。

彼の心をさらけ出すように、想いを伝えるように。

好きだ、好きだと。

唇を合わせる度、そう聞こえてくるような口づけに心が甘く痺れていく。

私の胸にある彼への想いも溢れ出して、切なさに唇が震えた刹那、ふと、僅かに離れた唇。


「お前を手放したら、後悔する」


愛の言葉が零れて、また触れ合って。


「いつだって自然体で俺に接して、ころころと表情を変えて。見ていて飽きないし、もっと、ずっと、一番近くでお前を見ていたい」


優しいテノールの告白が鼓膜に心地よく染みる。