彼に『数学、得意?』と聞いたのは、あわよくば、苦手な数学を教えてもらおうかな、と思い立ったから。でも彼に借りを作ってしまったら、後々厄介なことになりそうだ。
『勉強を見てほしい』と言わなくてよかったと、ホッと胸をなで下ろした。
優しいのか、それとも意地悪なのか、同じ時間を過ごせば過ごすほど、彼のことがよくわからなくなる。
膝の上にのせたままの食べかけのメロンパンに視線を落とし、彼について考えを巡らせてみても、その答えは出そうにない。
もう、教室に戻ろう……。
彼と一緒にいることに疲れを感じた私は「じゃあ」と言うと、ベンチから立ち上がろうとした。けれど私より早く、彼が腰を上げる。
「明日の昼休み、教科書とノート持ってこいよ」
ベンチから立ち上がった彼の口から出たのは、耳を疑うような言葉。勉強を見てほしいとはひと言も言っていないのに、すでに彼はその気になっているようだ。
「あっ、ちょっとっ!」
校舎に向かって行く彼の背中に叫んでみても、その足が止まることはなかった。


