「ねえ、私たちのダンス、どうだった?」

「……俺、ダンスのことはよくわからないけど……よかったと思う」

彼はたどたどしくそう言うと、パーカーのポケットに手を入れてそっぽを向いてしまった。

彼の褒め言葉を聞いた瞬間、目標に一歩近づけたような気がして、衣装が入ったサブバッグを胸に抱えると小さなガッツポーズを作った。

すると制服のポケットに入れていたスマホがブルブルと震え出す。サブバッグを左手に抱え直して、右手でスマホを取り出せば【今どこ?】と、私を心配する真美からの短いメッセージが表示されていた。

彼と一緒にプラザホールの外にいることは、誰にも言ってない。

「私、そろそろ……」

そう言いかけたとき、彼が私に向き直った。

「なんで笑えるんだよ。なんで……」

彼はポツリとつぶやくと、苛立ったようにキャップを脱ぐ。そしてウエーブした長めの前髪をクシャリと掻き上げた。

彼は突然目の前に現れて、私を振り回す。そんな自分勝手な彼のことなど無視すればいいのに、それもできない。
中途半端な自分に落胆しつつも、彼の質問の答えを考えた。

「……今はダンスが楽しいから、かな」

私はダンスが好き。だからダンスに一生懸命になれるし、笑顔にもなれる。今の私は、清々しい気持ちでいっぱいだ。

「……」

けれど、彼は黙ったままでピクリとも動かない。

やっぱり私、彼に振り回されている……。

「そろそろ戻るね。それからダンス、褒めてくれてありがとう」

結果発表の時間が迫っている今、いつまでも彼につき合ってはいられない。

鞄とサブバッグを両手で抱えると、彼の前から立ち去った。