南棟の階段を駆け上がり、教室に入って自分の席に着く。机の上に教科書とノートを広げると五時間目の授業が始まった。

もう涙は止まったし、死の恐怖と不安もだいぶ薄れた。だから今は授業に集中しなければと思い、教科書に視線を向けた。

けれど、ふわふわとする気持ちはそう簡単には切り替わらない。

授業中にもかかわらず思い出してしまうのは、背中に回った彼の腕の感触。好きでもない人に抱きしめられたのはうかつだったと思う反面、彼の温もりは嫌じゃなかったと思ってしまう。

今、彼も五時間目の授業を受けているのだろうか。まさか裏庭で寝ていたりしてないよね?

彼のことを気にしている自分に驚きながら、ぼんやりと頬杖をついた。