大きな声で自己主張ができなくなってしまったのは、カナちゃんの一件があったから。でも今、私は怒りの感情を彼にぶつけた。

人に向かって怒鳴ったのは今日が初めて。けれど、ちっとも心が晴れない。

もう彼とは関わりたくない。でも家には帰れない。

この先どうしたらいいのかわからず途方に暮れていると、彼がポケットに手を入れた。

「ギャンギャン吠えてないで、あのバアさんの最期にどう向き合うか考えた方がいいと思うぜ」

威圧的だった今までの様子から一転、彼は私に諭すようにそう言う。

私は佐伯のおばあちゃんが何歳なのか知らない。でも、おばあちゃんが病気だということは聞いてないし、さっきだって元気そうにしていた。

頭が混乱する中、高ぶった感情を落ち着かせるために「ふう」と大きく深呼吸をしてみる。そんな私を横目で見た彼はクルリと背中を向けると、さつき台駅の方向に歩き出した。

突然私の目の前に現れて不安を煽(あお)るようなことをする彼の顔など、二度と見たくない。

もう私に構わないで……。

徐々に小さくなる彼の背中を見つめながら、そう思った。