小学校に入学してすぐに、クラスメイトのカナちゃんが図工で使うクレヨンを家から持ってくるのを忘れてしまった。隣の席だった私は自分のクレヨンを一緒に使おうと声をかけた。

今日、画用紙に描くのは春の一日。私は入学式の日にスーツを着たカッコいいパパの姿と、普段よりオシャレをした綺麗なママの姿、そして大好きなピンク色のランドセルを背負った自分の姿を描くことに決めた。

幼稚園の頃からお絵かきの時間は好きだった。気分よく絵を描き進め、ランドセルの色を塗ろうとしたときに、ピンクのクレヨンがないことに気づく。

隣の席のカナちゃんを見れば、画用紙いっぱいに桜の花びらを描いている最中だった。

真新しいピンク色のクレヨンが見る見るうちに短くなっていく。物悲しい気分になった私が「カナちゃん。ピンクばかり使わないで」と小さな声で訴えた。すると、私の目の前でカナちゃんがピンクのクレヨンをボキッとふたつに折った。

「未来ちゃんのケチ! 意地悪!」

大柄なカナちゃんは声もデカい。カナちゃんのひと言で、教室はあっという間に騒がしくなってしまった。

ただ私は、自分がまだ一度も使っていないピンクのクレヨンが短くなっていくのが悲しかっただけ。

私は悪くない。クレヨンを折ったカナちゃんの方が悪いと声をあげようとしたそのとき……。

「はい、静かに! 葉山さん。困っている人には親切にしないといけませんよ」と、クラスのみんなの前で先生に注意されてしまった。

自分に向けられたクラス中の視線が痛くて恥ずかしい。

ふたつに折れてしまったピンクのクレヨンは、もうもとには戻らない。まだランドセルの色を塗っていない絵の上に、大粒の涙がポトンと落ちた。