「未来(みく)。今日は楽しむよ」

私に声をかけてきたのは、新倉真美(にいくら まみ)。聞き慣れ親しんだ彼女の声は、緊張という呪縛に囚われてしまった私を瞬く間に解放してくれた。

ステージの上で踊る私がダンスを楽しまなければ、観客が楽しんでくれるはずない。

「うん。楽しむ」と自分に言い聞かせるようにうなずくと、ステージを照らすライトがパッと光った。

観客席から聞こえてくるのは、大きな拍手と声援。ライトの明るさに慣れてきた私の目に映ったのは、旭ケ丘高校の制服を着た在校生や保護者、私服姿の一般客の姿。その中にはダンス部を引退した三年生の姿も、もちろんある。

今の時刻は午後二時。おやつには少し早いけれど、かき氷やチョコバナナなどおいしいそうな模擬店が数多く出店している中、私たちのダンスを見るために体育館に足を運んでくれたことがとてもうれしい。

自然に頬が緩み、口角が上がる。そして、もう何百回も練習してきた音楽が体育館に流れ出すと、リズムに合わせて体が勝手に動き始めた。

ついさっきまで緊張して、頭が真っ白になっていたことが嘘のように体がなめらかに動く。軽快なリズムに合わせてステップを踏めば、観客席から歓声があがった。