「私も基礎練つき合うからがんばろう。ね?」
私の気持ちは、真美の励ましの言葉に遮られてしまった。
貴重な昼休みを割いてまで基礎練習につき合ってくれると言われたら、さすがにNOとは言えない。
「う、うん」と、ぎこちなく答えれば、真美がニコリと微笑んだ。
「じゃあ、改めて。まずはアイソレからね」
「うん」
両足を肩幅ほどに広げ、膝を軽く曲げる。そして腰に手をあてると、胸を前後に動かす。基礎練習の中でも、アイソレーションは特に苦手。どことなくぎこちなさが目立つ私に対して、真美の動きはリズミカルでスムーズだ。
勉強も徒競走も、そしてダンスも真美には敵わない。
基礎練習を初めて一分も経たないうちに、真美との実力の差を思い知った私が落ち込みかけたその瞬間……。
「うるせえな」
「えっ!?」
どこからともなく聞こえてきた不機嫌そうな声に驚き、アイソレーションの動きが止まる。予期せぬ出来事に震えながら真美のもとに駆け寄ると、サツキの植え込みの向こう側にユラリと揺れる人影が見えた。
人が来なくて集中できる静かな場所だと思っていた私にとって、不意に現れた人影は恐怖以外のなにものでもなかった。
「ヒ、ヒィ!」
女子力ゼロの声をあげながら真美の腕にしがみつき、まぶたをギュッと閉じる。すると頭の中に幼い頃の記憶が浮かび始めた。
あれは五歳の夏……。