会話の中に登場した『剛』とは、真美の弟のこと。真美と私は幼なじみ。当然、お互いの家族のこともよく知っている。

幼い頃の剛くんは身長が低くて体も細く、転んで膝を擦り剥けばすぐに泣き出すような弱虫だった。でも中学三年生になった今では、見上げるくらい背も伸びて体もひと回り大きく成長した。

だから剛くんに彼女ができても、ちっともおかしくない。頭ではそう理解している。それなのに剛くんを素直に祝福できないのは、私も真美も今まで誰ともつき合ったことがないから。私たちはふたつ年下の剛くんに嫉妬しているのだ。

冗談半分、悔しさ半分に「うん。生意気だ」ポツリとつぶやいた矢先、目の前の信号が赤に変わった。

「ねえ、未来。あれって紀香じゃない?」

興奮気味に声をあげる真美の視線の先を見つめれば、交差点の向こう側で信号待ちをしている紀香の姿があった。

「あ、本当だ」

紀香はさつき台中学校に通っていた同級生。バレーボール部に所属していた紀香とは違う高校に進学したため、彼女の姿を見るのは中学校を卒業して以来だ。

花柄のブラウスに膝上丈の赤いミニスカート姿の紀香は、遠目からでもよく目立つ。

交差点の向こう側にいる紀香に手を振ってみたものの、スマホを耳にあてて笑い声をあげている彼女は私たちの存在に気づいてはくれなかった。

そうこうしている間に信号が青になり、私たちは足を進める。