あたり障りのない会話とは対照的に、どんどん濃くなっていくスキンシップに戸惑っていると、幸希が私の耳もとに唇を寄せた。
「未来……」
私の名前を甘くささやく幸希の声を聞いた瞬間、全身の力が抜けてしまう。もたれかかるように幸希の体に身を寄せれば、瞬く間に視界が大きく傾いた。
私、幸希に押し倒されたんだ……。
そう気づいたのは、フローリングに仰向けになった私を見下ろす幸希と目が合ったから。
私の初めては、すべて幸希に捧げると決めている。
だから普段より少し強引な幸希も、ちっとも怖くない。それよりも私が恐怖を感じたのは、背中に感じたフローリングの冷たさだった。
命を喰らう魔物が見える幸希を忌み嫌った両親は、彼にマンションを与えて見捨てた。
この寒々しい部屋にずっとひとりで暮らしていた幸希を思ったら、涙が込み上げてきてしまった。
けれど、幸希は私の涙の理由を知らない。
「未来……ごめん」
目尻から涙をこぼす私を見た幸希が、慌てて距離を取る。
「違う……違うの……」
急いで体を起すと、うなだれる幸希のもとに近づいた。そして丸まった幸希の背中に両手をつき、そっと頬を寄せる。
私が伝えたいのは、たったひとつの思い。
「寂しくなったら、いつでも私を呼んで。ずっとは無理かもしれないけれど、私の命が尽きるまで幸希の隣にいるから……」
幸希はひとりじゃない……。
そのことを必死に伝えると、幸希の肩が小刻みに震え出した。
「未来……ありがとう」
震えているのは肩だけじゃない。
声まで揺らす幸希の体を背後から抱きしめれば、彼のお腹に回した私の腕に一粒の涙がこぼれ落ちた。


