「そういう真美は好きな人、いないの?」と話題を変えると、真美は数秒したのちに「……いる」とポツリとつぶやいた。

今までの勢いから一転して、しおらしい態度を見せる真美がかわいらしい。

「それって、私が知っている人?」

それとなく遠回しに尋ねてみれば、真美の足が止まった。

「誰にも言わない?」

「もちろん」

声を潜める真美に向かって、コクリとうなずく。

ここは旭ケ丘駅に向かう途中の歩道。同級生やダンス部のメンバーに、好きな人の名前を聞かれたくないと思うのは当然だ。

下校する旭ケ丘高校の生徒から距離を取るために、ふたりでコソコソと自動販売機の陰に移動すると、真美が私に耳打ちをした。

「私が好きなのは……同じクラスの北山」

真美の口から北山くんの名前が出たことがうれしい。

「そっかぁ!」とテンション高く相づちを打つと、今度は核心に迫ってみることにした。

「告白しないの?」

真美が好きだという思いを打ち明ければ、北山くんはすぐにOKするはずだ。

カッコいい北山くんと美人の真美。お似合いのふたりを想像するだけで、頬が勝手に緩んでしまった。