まだ夢見心地の頭に車掌のアナウスが聞こえた。

ハッ、と体を起こして窓の外を見ると、まだ自分の降りる駅が先なことに安堵して、再び背もたれに体を預ける。

決して座り心地がいいとは思えないローカル電車の向かい合わせの席は舗装の行き届かないデコボコとした田舎道の影響を受けて背中が痛くなる。

初めは1時間近くかかる電車通学に耐えられるわけがないと思っていたけど、一年が経とうとしている最近では居眠りも余裕だ。


「司馬遼太郎」

私が居眠りしている間に乗車してきたのか、自分と同じ学校の学ランを着ている生徒が私の斜め前の向かい席に座っていた。

視線を向けると、彼の手元には見覚えのあるブックカバーのかかった文庫本が開かれている。

慌てて自分の手元を見て、それが自分の物であることを理解すると、瞬間恥ずかしくなって、彼の手から文庫本をひったくる。