廊下を歩いていると、向かいからやって来た男子生徒数人が「ちわー」と頭を下げる。

さっきもあったことだが、野球部の後輩がすれ違うたびに脩に挨拶をしてくるのだった。

「やっぱ、彼女さんだったんすね」

「ちげーよ」

後輩にからかわれたものの、いつもと変わらない様子で脩がすぐに否定した。

その通りなのに、何の変化も無く否定をする脩を見ると、虚しくなる。

脩にとっては、こんなからかい、どうってことないんだ。

「ねぇ、脩って彼女いたことあるの?」

「何だよ、いきなり」

「いたことあるの?」

「まぁ」

いたんだ。

野球一筋で興味無い、とかをちょっと期待もしてた自分に気づく。

「その子はどんな子だったの?」

「何でそんなこと言わなきゃなんねぇんだよ」

それはそうだ。

何でこんなこと聞いてるんだろう。

その子は自分とどう違う?

そんなことを比べてどうするんだろう。

「そろそろ、戻ろうか」

あまりに不自然な話の晒し方だったかもしれないけど、この話を続ける気力もなくなってしまったから、足早に自分達の持ち場に戻ることにした。