男は片手にナイフを持っていた。 それを使ってチヒロを脅したんだってことは、中学生だったあたしにも、容易に察知出来た。 天井から射す オレンジ色のスポットライトがナイフをギラつかせている。 身じろいだ時、背後にいた七海とぶつかった。 「ロナ‥。」 七海の声は震えていた。 あたしがしっかりしなきゃと思った。 なのに、凶器を前に体は動かなくて、出入口を塞ぐように硬直したまま立ちすくんでいた。 「どけ!ガキ!」 怒鳴り声と共に男はナイフを振りかざし、半袖から伸びたあたしの腕を切り付けた。