階段を下り立つと同時、目の前にバッグとケータイが現れた。
「あ‥。」
思わず小さな声を漏らして、それらを手に取った。
「要るんだろ。」
不意に、ホールの奥、地下への入口から声がした。
意表を衝くのが趣味なのか、セトが交渉もなく返してくれたことに驚いた。
「いいの?」
返されて当然なのに、遠慮がちに尋ねている。
彼は、頷くと
「ただし、そのケータイには盗聴器を埋め込んでいるからな。下手に逃げようなんて思うなよ。仮にケータイを捨てるようなことがあれば、お前の命は保証しない。分かったな。」
有無を言わせぬ態度で、そう言った。
「ホルス、人間のやり方でロナを送ってやれ。」
「畏まりました。」
逃げ出せば、殺される。
暗にそのことを匂わされたように感じて、心臓はキュッと収縮した。
「監禁してバカみたく洗脳でもするつもり?」
あたしは捨て台詞を吐いて、セトを睨んだ。


