頬を伝う涙はポタポタと零れ落ち、左手首に嵌めたロザリオを濡らし続けている。
これでいい‥
パパにもママにも雷斗にも、二度と会えなくなるけど‥
─ お前なら切り抜けられる ─
セトは、きっと魔王を倒すのではなく、魔王のココロを浄化させることを望んでいたはず‥
それが魔界を消滅させる一番の方法だと‥
あたしなら、それが出来ると‥
「ねぇ、ルシファー。異界のどこかで綺麗な世界を作ろう。憎しみも暴力も、傲慢も身勝手も無い、透き通るほどに優しさが溢れてる、そんな理想郷を‥。」
あたしは、魔王に微笑んだ。
「小娘よ‥。」
ルシフェルは唸るように呼び掛けた。
そして、
「我は敗北を認めぬ。だが、愛とは尊く汚れなきもの‥。そして、何よりも強きもの。セトへのお前の愛がそうであるように‥。その愛が我を闇から目覚めさせたように‥。」
そう呟くと、その場に崩れ落ちた。
途端、ロザリオが目映い光を放ち、パンッと言う音と共に砕け散った。
一瞬、ギュッと閉じた目を開けて、ハッと息を飲む。
瞳には、真っ赤なポインセチアが一輪、映っていた。


