一瞬、何が起こったのか分からなかった。
セトは、壁に強打した体を横たえている。
─ セト‥
呆然と突っ立っていると、突如、ガガガ‥と大きな音が頭上で響いた。
無意識に見上げた天井は真っ二つに開いていて、ブラックダイアモンドの夜空には月が浮かんでいた。
ルビーのような透き通った赤の、丸い丸い月。
その月を見上げるホルスは震えていた。
「始末しろ、ホルス。」
「はっ!」
ルシフェルに応えたホルスは月光を浴び、見る見るうちに、毛むくじゃらの狼男に変化した。
そう、ホルスの正体は狼男。
狼男は、倒れたセトに「ウウー」と唸ると、彼本来の主へと向き直り、忠誠を誓うように耳を垂れた。
「ホルスよ。サラマンドラの密告だけでは、お前もセト同様に反逆者だと疑うところだった。先廻りして、女神の娘を解放したセトの裏切りを垂れ込むとは、見上げたものよ。その忠誠を証明する機会をやろう。さぁ!殺れ!」
威圧するようにルシフェルは、再度ホルスに命令した。


