上下左右と両手を動かしながら進んで行くと、左手首に嵌まったロザリオに、コツンと何かが擦った。
─ え‥?
咄嗟に立ち止まり、ロザリオに視線を遣った。
途端、魔族達が“ブラッディキス”と呼ぶそのロザリオは、赤ともオレンジともつかない光で辺りを照らし出した。
赤橙色の光はモワモワと、何かの形を描き出しているように揺れている。
「魔人出現とかヤメてや‥。呼んで無いから‥。」
逃げると言う選択肢は、あたしの中に無かった。
無かったと言うよりは、思いつかなかったんだ。
不安な気持ちで見ていると、赤橙色の光が造り出す形は どんどんと広がり、青みを帯びると共に次第にハッキリして来た。
「え?マジで‥?」
あたしの目の前に現れたのは、森林‥、否、果樹園だった。


